はじめに
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「アルプスあづみのセンチュリーライド」という名前のサイクリング大会が2009年に生まれた。9月後半の連休に開催された第1回大会には、136名の参加者があった。第2回からは、安曇野が最も美しい5月末に開催時期を移し、第5回となった2013年には1500名を超える参加者が全国から集まっている。
もともとは「公園どうしの連携」というテーマでスタートしたのだが、そのコアは「北アルプス山麓を颯爽と自転車で走り回れたら楽しいだろうな」という発案者の想いにある。
運営を重ねる過程で「公園どうしの連携」はむしろ薄れ(実際、主会場として信州スカイパークのサッカースタジアム=アルウィンが使われたのは1回目だけ)、大人気のサイクリングイベントとして定評を得つつある。また、県外から多くの参加者が集まるため、スポーツツーリズムの観点からも注目されるようになった。
さて、本書「アルプスあづみのセンチュリーライドの挑戦」だが、「アルプスあづみのセンチュリーライド」は、いったい何に「挑戦」したのか? そしてその結果はどうだったのか?
※以下、見出しをクリック(タップ)すると本文が表示されます。
第1章 それは「やきそば」から始まった!?
湯澤 将範
国営アルプスあづみの公園工事事務所所長(当時)
2009年3月7日(土)
この日、ホテルブエナビスタ(松本市)では、「信州・地域活性化シンポジウム『信州の食と観光』交流人口が生み出す地域活性化」(主催:信州産学官連携機構)が開催されていた。
湯澤将憲(国土交通省国営アルプスあづみの公園事務所長:当時)は、長野県安曇野市にある国営アルプスあづみの公園事務所長として赴任し、1年近くがたとうとしていたが、「国営公園による地域の活性化」という課題に糸口を見いだしかねていた湯澤は、「食」に着目をしたこのシンポジウムにヒントを得るべく出席することにした。
ホテルに到着したのは13時15分。13時30分からの開始には十分な到着であったが、どうも様子がおかしい。参加者が見あたらない。受付で受付を済まし、そっと扉を開けてみると、ちょうど来賓の長野県の観光部長の挨拶が終わったところであった。「しまったな。」そう思いつつ、湯澤は空席が目立つ隅っこの方に着座し、基調講演を聴くことにした。
基調講演は、内閣府の担当者と、富士宮焼きそば学会会長の渡辺英彦氏によるものであった。内閣府の方の講演はさておき、湯澤は渡辺氏の「富士宮焼きそば」に関する取り組みとその視点を紹介した講演に、まさに目から鱗が落ちる思いで聴き入った。
- 「富士宮やきそば学会」は、市民として何ができるのかと言うところから出発しており、焼きそばを「つくっている人たち」ではない。焼きそばを勝手に応援し、情報発信をするという団体である。
- 同様の取り組みでうまくいかないのは、みんなが「つくる側」に回ってしまっているところにある。
- 取り組みの根拠(動機付け)はどうでもよく、いくつもの切り口を持つことが必要である。
- コンセプトをきちんとして、イベントに結びつけていく。
- 取り組みの中で重要なのは、役割分担であり、つくる人、行政、市民の役割を明確にしておくこと。市民がつくる人(業者)になってしまってはうまくいかない。
- ものづくり社会は、行き詰まりを見せている。このような時こそ、価値観の変化、パラダイムの変化に気づき、必要なものを自分たちで生み出していかなければならない。
- 身近にあるもの、手を付けられるもので何かやってみる。素材を発掘し、付加価値を加えていく。
- いいと思うものは人によって違うので、コンセンサスを得てやろうというのではなく、コンセンサスは後回しで、とりあえずやってみることが大切。
などなど。やはり、何でもやってみることなんだなあ。
渡辺氏の講演が終わり、参加者からの質問の時間となったが、なかなか質問が出ない。こういう場面ではやはり質問はしづらいもの。と思ったとき、一人のおじさんが発言した。
「TOYBOXの松島です。・・・・・」
(TOYBOXか。)
湯澤には聞き覚えのある名前であった。国営公園の仕事をしている関係上、当然ことながら関連する長野県が管理している公園のことも耳に入ってくる。松本空港の周辺に位置する「松本平広域公園(愛称:信州スカイパーク)」に以前指定管理者制度が導入されて、地元の建設会社を中心としたグループ=TOYBOXが管理している程度のことは知っていた。
「TOYBOXか。一度行ってみようかな。何か糸口が見つかるかもしれないし。公園同士で連携すれば、何か新しいことができるかもしれないし。」
2009年3月9日(月)
TOYBOXに電話をして、12日(木)に先方の所長(平林さんというらしい)とアポイントを取る。
2009年3月12日(木)
10時にTOYBOXの事務所がある信州スカイパーク・アルウィンへ。応対して頂いたのは、所長の平林さんと副所長の松島さん。そう、松島さんは先週のシンポジウムで質問をされた方だ。
事務所に戻った湯澤は、自転車というヒントを得たものの、前後して、国会議員からの資料要求とかいろんな会議が立て続けにあったり、家族のトラブルで休暇をとらなければならなくなったりと、落ち着いて考える時間がとれないまま22日(日)を迎えた。
2009年3月22日(日)
テレビで朝から放映されていたものは、「東京マラソン」である。2007年に始まったこのマラソンは、東京都心を駆け抜けるコースとして、また市民マラソンとして瞬く間に人気を博し、第3回にあたる2009年も三万人を超えるランナーが参加していた。
「そうだ、自転車でこんなのできないかな。市民参加の大規模なサイクリング大会ってあるのかな。」
2009年3月23日(月)
湯澤は事務所に出勤するなり、サイクリングイベントの企画書を一気に書き上げた。別にイベントができるという見通しがあるわけでも何でもない。公園同士で協力すれば、何かできるかもしれないが、お金があるわけでもない。ただ、「北アルプス山麓を颯爽と自転車で走り回れたら楽しいだろうな!」という想いだけ。ちなみに湯澤は自転車には乗らないので、その爽快さなんて、別の所でも味わったことなんてないのだが・・・。
取り急ぎ、TOYBOXの平林さんと松島さんに、先日のお礼かたがた、メールで企画書を送付しておいた。まあすぐにどうのこうのってことにはならないが、またヒントのひとつでももらえればいいかな、程度の期待は持って。
サイクリングイベント企画書
2009.3.23 湯澤 将憲
北アルプス山麓を走ろう!
市民サイクリングマラソン(仮称)の開催について(私案)
国営アルプスあづみの公園事務所
公園を飛び出し、新たな可能性へ
- 都市公園は地域のスポーツ・レクリエーションの拠点です。同時に、地域振興への貢献も期待されています。
- 公園の中だけではできることは限られますが、公園を飛びだしてみたら、もっといろんな可能性があるかもしれません。
- 中信地域では、この夏新たに「国営アルプスあづみの公園【大町・松川地区】」が開園します。
- これを契機に、公園の連携と拠点化を進め、地域が元気になるプロジェクトを立ち上げてみたいと思います。
- とりあえず、「何ができるのか」より「何をしたいのか」について考え、その中から実施可能性のあるプロジェクトを仕立てて行ければと思います。
- プロジェクトは、他のマネをしても良いのですが、マネをした上で唯一性(オンリーワン)を出していく必要があります。
サイクリングイベントで、公園発の地域おこし
- 先日も東京マラソンが開催され、35,000人ものランナーが参加しました。
- まだ、市民マラソン化して3回目ですが、メディアへの露出もあって、日本最大の市民マラソンとして定着した感があります。
- さて、最近、地球温暖化防止の観点から「エコ」な生活がもてはやされていますが、自転車もエコな生活の一つの手段です。
- そうだ車を捨てて、自転車に乗ろう!
- で、市民マラソン大会はありますが、大規模な市民サイクリング大会(市民サイクルロードレース)ってあったでしょうか。
- 松本~安曇野~大町は、サイクリングには最適な環境を有しています。
- 日本最大のサイクリングイベントで、公園発の地域おこしをしてみてはどうでしょうか。
市民サイクリングマラソン(仮称)
- 拠点となる公園は、国営アルプスあづみの公園【堀金・穂高地区】(安曇野市)、同【大町・松川地区】(大町市)、信州スカイパーク(松本市)、あづみ野池田クラフトパーク(池田町)とします。
- 参加者は、それらのどこからでも出発し、ゴールすることができます。
- 1周することを原則としますが、体力、体調に応じて、1~3区間のみの走行も可とします。
- この大会は競争(ロードレース)ではありません。楽しく走って、できれば完走を目指します。家族やグループでの参加は大歓迎です。
開催に向けて
- 誰が運営するのか、交通規制はどうなるのか、運営経費はどうするのか、自転車や参加者の運搬はどうするのか、・・・。
- そういった難問は山ほどありますが、『北アルプス山麓を颯爽と自転車で走りまわれたら楽しいだろうな』という(勝手な)思いがどうすれば実現できるか、ということをこれから考えていきたいと思います。
- これからの地域の中での公園のあり方、公園の地域貢献のあり方として、何かできないかと思います。
2009年3月27日(金)
先のメールの送信から4日後、TOYBOXの平林さんと松島さんが事務所に来られた。所長室の応接セットに座るやいなやパソコンとプロジェクターを用意し始めた。何が始まるかと興味津々見ていると、
「先日の企画書をもとに、我々も企画を作ってみました。ちょうど別の公園で元オリンピック選手の鈴木雷太さんと一緒に活動をしたことがありまして、雷太さんのアドバイスももらいながらつくってみましたので説明させてもらいます。」
そこで提案があったのが、「センチュリーライド」である。湯澤はここではじめて「センチュリーライド」という用語を耳にしたほどの自転車素人であるが、とにかく感心したのは、そのレスポンス(反応)の早さだった。よくみていくと、「?」な部分もあるにはあるのだが、今求められているのは『とにかくやってみよう』
という渡辺さんの言葉だと思っていたので、この早いレスポンスには感激である。
これを振り出しに、第1回のアルプスあづみのセンチュリーライド開催へ向けて動き出すこととなった。
第1章2 アルウィンから安曇野へ
松島 義一
2009年3月9日(月)
平林(TOYBOX信州スカイパークサービスセンター所長:当時)から「まっちゃん、国営公園事務所の所長から電話があったよ。12日にアルウィンへ来るって。」
この日は奇しくも松島(松島義一:TOYBOX信州スカイパークサービスセンター所長:当時)の47回目の誕生日。“国土交通省の所長”からわざわざ電話を頂くとは一体何事か!? 土建屋に勤める身(松島は松本土建㈱より指定管理事業を営むコンソーシアムTOYBOXに出向:当時)にはかなり衝撃的なできごとだ。かといって用件がわからなければ準備のしようもない。
2009年3月12日(木)
公用車に乗って湯澤所長が到着。アルウィン(松本平広域公園総合球技場の愛称。TOYBOXの事務所が1階にある)の特別応接室にご案内する。名刺交換。歓談。
先日の渡辺氏の講演会(前述の「信州・地域活性化シンポジウム『信州の食と観光』交流人口が生み出す地域活性化」)で一緒だったと聞く。講演会事務局増山さん(松島知人 信州大学産学官連携推進本部:当時)への義理もあって質問したのだが、そのことがこんな形でつながることにびっくり。「公園どうしが連携して何かできないか?」との投げかけに、「自転車っていいですよね」と答えてみた。TOYBOXが昨年4月から管理者になった美鈴湖のキャンプ場で、自転車の元オリンピック選手鈴木雷太氏とご縁ができ、「松本は自転車愛好者にとって最高の地」という話しに影響を受けていたことが背景にあった。
特に次のアクションを約することもなく、「何となく」会談は終わった。
2009年3月23日(月)
1通のメールが届いた。
<前略>私どもの事務所でも、大町・松川地区の開園に合わせ、2地区間の連携、さらには地域との連携を強めていこうということを目的に、4月から、地域調査担当の職員を配置することにしておりますので、このような連携事業に積極的に取り組んでいきたいと思っております。
取り急ぎ、先日の御礼を兼ねて資料を送付させて頂きます。
サイクリングでなくとも良いのですが、何かアクションを起こしていきたいと考えておりますので、良いお知恵を拝借できれば幸いです。
湯澤所長からメールが届いたことを平林に伝えると、ビックリ仰天。
「平林さん所長様からメール来たよ~」「えーマジ?」
普通あり得ない!でも来た。しかも添付ファイル付き。早速開いて読んでみた。
これはすごい!
ご返杯するしかない!しかもすぐに!
2009年3月24日(火)
松島は、今まで考えていたことの断片をかき集め、企画原案にまとめて、TOYBOXスタッフにメール配信した。
自転車イベント企画原案
2009.3.24 松島 義一
市民サイクリングマラソン(仮称)の開催について(私案)
に対するTOY BOXとしての対応について
1.これまでの経過
09/03/12 国営アルプスあづみの公園事務所長湯澤氏がアルウィンへ来訪
平林、松島で対応
○3月7日に開催された『信州・地域活性シンポジウム』に市川・松島で出席。たまたま湯澤所長も出席しており、「TOYBOXと何か連携できることはないかと思い、連絡をした」とのこと
○国営公園は公園緑地管理財団が管理しているが、ややマンネリの感がある。7月には大町松川地区が開園することもあり、新たな取組を模索している。
○TOYBOXから・・・
- 今、自転車に注目しています
- 昨年国営公園<大町松川地区→穂高堀金地区>で自転車イベントを実施されましたね
- 国営公園とスカイパークを結んで安曇~松本平周遊の自転車イベントを開催しませんか?
- 松本から自転車を発信しましょう
09/03/23
○湯澤所長よりメール着信
「市民サイクリングマラソン(仮称)の開催について(私案)」
2.このイベントの目的
湯澤所長の企画書にある通り
1)【大町・松川地区】の開園を契機に、
2)公園の連携と拠点化を進め、
3)地域が元気になるプロジェクトを立ち上げてみたい
◎北アルプス山麓を颯爽と自転車で走りまわれたら楽しいだろうな
◎日本最大のサイクリングイベントで、公園発の地域おこしをしよう!
3.TOY BOXの目的
○国営公園との連携はのぞむところだ!
○TOY BOXのミッションは「(管理する施設に)来た人が元気になること」
ならば、行き着く先は「地域が元気になること」
○【松本平と自転車】は「ここにしかない魅力」
しかも地元の人よりも他地域の人のほうがその魅力を知っている。
◎TOY BOXから【松本平と自転車】の魅力を発信し、実現しよう。
4.当面まとめること
◎どうやれば面白くできるのか?
・キャッチーなタイトル?
・内容の面白さ?
・エイドで盛り上げる?
◎どうやれば多くの人が参加してくれるか?
・PRの方法、ルートは?
・愛好者ならではのクチコミルート?
◎どうやれば、多くの人の関心を得られるか?
◎お金をどうするか?
・補助金?
・自転車関係のスポンサー?
・参加費?
◎どんなメンバーで進めればいいか?
・メンバーとして名前をあげられる人
・協力してくれる人
・行政関係
5.金曜までにまとめて持っていくネタ
◎面白い切り口を
◎作り込みすぎず
◎ちらっと見せる → もっと見たい!
◎TOY BOXの今までの実績をさりげなくアピール
・美鈴湖
・スカイパーク
・遠山郷チャレンジマラニックのエイド など
・スカイパーク通信の先月号(by ASAMI)
そして・・・
◎自転車愛好者からみて、これが実現することにはどんな意義があるのか?
◎このイベントがもたらす波及効果はどのようなものか?
2009年3月25日(火)
松島は企画原案をもってBIKERANCH鈴木雷太氏を訪ね相談した。
「雷太さん、国営アルプスあづみの公園の湯澤所長という人が訪ねてきてね、何か一緒にやりたいというので『自転車どうですか?』といったら、すごい企画書が送られてきてサ。こっちも一生懸命考えてみたんだけど、どう思う?」
「じゃあ、センチュリーライドやりましょうよ! ホノルルセンチュリーライドっていうイベントをハワイでやってるんだけど、僕、前から安曇野でやりたかったんですよ!」
「センチュリーライド・・・。」
「そう。100マイル=センチュリーマイル走るサイクリングイベントなんですよ。自転車が好きな人にはね、1日で100マイルぐらいが一番楽しく走れる距離なんです。」
「よし、決まり!それで行こう!」
事務所に戻ると松島は朝までかかって企画書をまとめた。
2009年3月27日(金)
松島は平林とともに国営公園事務所に湯澤所長を訪ね、持参したパソコンとプロジェクターをセットしプレゼンを始めた。
北アルプスセンチュリーライド企画書
2009.3.27 松島 義一
公園の連携から始める地域活性化プロジェクトのご提案
◎松本~安曇野には、素晴らしい自然と素晴らしい公園があります。
◎公園がつながると、元気の輪ができる。
◎元気の輪をつくって自転車で走ろう! そこで・・・
◎日本最大のサイクリングイベントで、公園発の地域おこしをしよう!
Drive My Soul! 車を降りて、自分に乗ろう!
北アルプスセンチュリーライド
◎センチュリーライドとは、160キロ(100マイル)走るサイクリングイベントのことです。
◎順位を競うレースではありません。もちろん初心者向けに短い距離のコースも設定します。
◎初年度は参加者2,000人が目標。3年後に参加者5,000人を目指します。
◎しかし・・・自転車だけの、一過性のイベントで終わっていいのでしょうか?
◎このイベントを契機に“SHARE THE ROAD”を発信し、定着させましょう。
◎道は、山は、そして街はみんなのもの。今は自動車が幅を利かせてますが。
◎「 SHARE THE ROAD」と「Drive My Soul」をキーワードに同時開催(便乗)イベントを募りましょう。
◎歩く・走る・こぐ・押す・回す・・・自分で自分を動かすものすべてOK!
◎例えば・・・ウォーキング、トレイルラン、車いすレース、カーフリーデー、スケボー、インラインスケート、MTB、ウィンドサーフィン、腕立て伏せ、etc.
◎松本~安曇野のあちこちで、好きなことを、好きな方法で、好きな仲間と一緒に楽しむ。・・・それが楽しい。
◎便乗イベントも含め、参加者には「Drive My Soul」 のバッジを進呈し、バッジを見せたらお店や宿泊が割引になる、なんてこともやりたいですね。
◎コアイベントのセンチュリーライドで5,000人の集客。便乗イベントでさらに5,000人の集客。
◎公園がつながると10,000人の輪ができる。
北アルプス山麓を颯爽と自転車で走りまわれたら楽しいだろうな。
ぜひ実現させましょう!
このプレゼンの感想は第1章に記されているとおりである。
これを振り出しに、第1回のアルプスあづみのセンチュリーライド開催へ向けて動き出すこととなった。
第1章3 AACR2009開催へ
2025/2/6更新
2009年5月28日(木)
国土交通省国営アルプスあづみの公園事務所の会議室にてミーティング
年度末~年度初めでお互い忙しく、あっという間に2ヶ月が経過していた。
出席者は
- 湯澤 将憲 国土交通省国営アルプスあづみの公園事務所所長
- 関 広克 国土交通省国営アルプスあづみの公園事務所建設専門官(地域連携担当)
- 内田 利幸 国営アルプスあづみの公園管理センター業務課長
- 平林 淳 TOYBOX信州スカイパークサービスセンター所長
- 松島 義一 TOYBOX信州スカイパークサービスセンター副所長
打合せ内容は
- 運営体制について
- 大会要項について
- 予算について
- 告知・募集・参加受付について
- エイドについて
- ボランティアなど協力依頼できる団体等について
などなど、多岐にわたった。
この日以降8月までは月2回ペースで、8月20日からは週1回ペースでの打合せを持ち、準備を進めて行った。
新しい取組みのため、ひとつひとつ新たに決めていかなければいけない。そのエピソードをいくつか紹介する。
運営体制について松島は「国土交通省が関与する以上、ルート上の行政にはすべて声掛けが必要になるだろう」と思っていた。ところが湯澤は「名前だけの運営組織はやめましょう。フットワークの良い体制にしたいと思います」と言った。意外だ。だがそれが正しい。そしてこの一言が、現在に至るまでAACR実行委員会の強みにつながっている。
その時の打合せメモには、こう残されている。
- 身軽な実行委員会形式としたい。
- 行政の後押しを得ながら、実行力と熱意のある人材が推進していく。
- 包括的な構想で行政の合意を得て、個別のテーマは現場レベルで動ける体制を築く。
2009年の実行委員は次のとおり
職 務 | 氏 名 | 所 属 | 役 職 |
委員長 | 市川 荘一 | TOY BOX | 経営責任者 |
副委員長 | 湯澤 将憲 | 国土交通省国営アルプスあづみの公園事務所 | 事務所長 |
プロデューサー | 鈴木 雷太 | BIKE RANCH | 代表 |
委員 | 関 広克 | 国土交通省国営アルプスあづみの公園事務所 | 建設専門官 |
〃 | 内田 利幸 | アルプスあづみの公園管理センター | 業務課長 |
〃 | 平林 淳 | TOY BOX 信州スカイパークサービスセンター | 所長 |
事務局長 | 松島 義一 | TOY BOX 信州スカイパークサービスセンター | 副所長 |
事務局 | 窪田 浩明 | ㈱アドソニック | 営業部長 |
〃 | 増山憲一郎 | プロスパー 信州大学産学官連携推進本部 | 代表 コーディネータ |
企画第1案では、大会タイトルは「北アルプスセンチュリーライド」
○○○○センチュリーライドとすることは概ね決まっていたが、前半分をどうするか、いくつか案が出た。
- 北アルプス センチュリーライド
- アルプス センチュリーライド
- 松本安曇野 センチュリーリーライド
- アルプスフロント センチュリーライド
- 北アルプス山麓 センチュリーライド
- アルプス安曇野 センチュリーライド
最終的には鈴木雷太氏に決めてもらうことになり、出た結論は「アルプスあづみのセンチュリーライド」
2009年9月21日(木)
いよいよ当日。うれしい晴天、会場の周辺はそばの花が満開、信州の秋をサイクリングで楽しんでもらうための舞台装置は満点だ。
松本平広域公園総合球技場(アルウィン)には、続々と参加者が集まってくる。136名の参加者ではあるが、受付が対応しきれず参加者の列が伸びる。それでも何とか受付完了。アルウィンの観客席で開会式が始まる。市川実行委員長、共催の国営公園事務所湯澤所長のあいさつに続いて、鈴木雷太のライディング教室。開会式が終わるとスタジアム正面に移動して、ゲートからのスタートを待つ。9:30市川実行委員長がトップでスタート!続いて15秒ごとに参加者が1人づつスタートして行く。全員を送りだしたらゴールの準備にかかる。写真入り完走証とキノコ汁の準備をする。参加者は全員無事で帰ってきてくれるだろうか?
11:30に60kmコースのトップがゴールイン。わずか2時間で60kmを走って帰ってくるとは!それから続々とゴール。平林がつくったキノコ汁とおにぎりをみなさんおいしそうにほおばる。ゴールの写真を刷り込んだ完走証を渡す。印刷が間に合わず、遅れ遅れになりながら何とか一人一人に渡していく。この写真入り完走証は非常に好評で、2012年まで続けている。
いよいよ最後の参加者がゴール間近と情報が入る。スタッフみんなで出迎える。ゴール! 無事に全員ゴールへ帰ってきた!感動と安堵感とが体に広がっていく。記念すべき第1回のアルプスあづみのセンチュリーライドが終わった。
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第1章4 AACR2009実施報告
2025/2/11更新
大会要項
大会名 アルプスあづみのセンチュリーライド2009
開催日 平成21年9月21日(月)
主 催 TOY BOX信州スカイパークサービスセンター
共 催 国土交通省関東地方整備局国営アルプスあづみ野公園事務所
財団法人公園緑地管理財団アルプスあづみ野公園管理センター
主 管 アルプスあづみのセンチュリーライド実行委員会
後 援 長野県松本建設事務所、松本市、安曇野市、大町市、波田町、
山形村、松川村、松本市ノーマイカーデー推進市民会議、社団法人梓川ふるさと振興公社
協 力 長野県体育センター、在宅看護職の会
協 賛 小林製菓株式会社、株式会社あづみ野、クア・アンド・ホテル信
州健康ランド、株式会社水宗園本舗
2009年9月21日(月・祝)、第1回アルプスあづみのセンチュリーライド(AACR2009)が開催されました。告知期間が短かったものの、滋賀県や埼玉県など県外の参加者24名を含む136名の参加者を迎えて開催することができました。
当日は素晴らしい快晴となり、北アルプスもその姿を表す中、参加した皆さんはサッカースタジアム・アルウィンを出発し、国営アルプスあづみの公園を往復する、60kmコースと100kmコースに挑みました。途中の梓川ふるさと公園、国営アルプスあづみの公園堀金・穂高地区、大町・松川地区にエイドを設定し、飲み物や軽食を用意するだけでなく、サポートカーと看護師もスタンバイし、参加者の健康と安全に配慮しました。その甲斐もあってか、1名のリタイアはあったものの、135名が無事完走!事故は1件もなく、無事に終了することができました。
ゴールのアルウィンではきのこ汁とおにぎりを用意し、参加者をもてなしました。(これが非常に好評でした!)完走者にはそれぞれの写真が入った完走証をプレゼント、「いい記念になります」とこれも好評でした。
「楽しかった」「来年も参加しますよ」と多くの方に言っていただき、来年に向けて確かな手ごたえを感じ取ることができました。
この大会開催にあたり、多くの方々からご支援、ご協力をいただきました。この場を借りてお礼申し上げます。本当にありがとうございました。
来年は文字通りの160kmコースを設定する予定です。地域の皆さまのご理解とご協力をいただきながら、この地域が盛り上がるような大会とすべくさらに頑張りますので、今後ともよろしくお願い申し上げます。
アルプスあづみのセンチュリーライド実行委員会一同
●コース別
100km 104名
60km 32名
●男女別
男性 110名
女性 26名
●居住地別
松本市内 31名(22.8%)
長野県内(松本市を除く) 81名(59.6%)
長野県外 24名(17.6%)
第2章1 AACR2010に向けて
2025/2/19更新
第1回アルプスあづみのセンチュリーライドが終了した。
課題はいろいろあるにせよ、記念すべき第一歩を踏み出すことができた。
では次回は?見直すことは山のようにあるが、委員各氏から意見が出され、次回の計画が次第に輪郭を表していった。
1 国土交通省国営アルプスあづみの公園所長 湯澤 将憲
◇ 実施体制
・主催を実行委員会とするか。(構成:TOYBOX、あづみの公園、サイクリスト、関係市町村観光協会など。事務局:TOYBOX):会長は?
・特別協力:バイクランチ
・協力:長野県体育センター、住宅看護職の会、信州大学自転車部など
・後援:長野県、松本市~白馬村など
・協賛:小林製菓、あづみ野、信州健康ランド、水宗園本舗ほか(大型スポンサーが付いた場合は特別協賛)
・マスコミ社を入れる場合は共催?
◇長野県唯一の平地系長距離ファンライド
・誰でも参加できる長距離イベントということを強くアピール。
・長野県では稀な平地系ライド。
◇環境への取り組み
・カーボンオフセット(イベントで排出されるCO2を、植樹等で吸収するしくみ)
・発着点に記念植樹というのができればよいが、緑化団体・森林管理団体等への寄付というしくみもありか。
・前日に参加者が環境活動をする、という自転車イベントもあり。
◇TV局とのタイアップ
・地元地方公共団体発のイベントではないことから、地域への浸透を図る手法としてテレビ媒体を活用することも一案。
・生中継は無理にしても、地方番組での体験コーナーなどでの紹介。
→長野県内での唯一性、新規性、独自性などをTV局に対してアピール
◇大型スポンサー
・運営安定化のための協賛金の獲得
・県内企業を中心とするか、大手企業にアタックするか
◇ゲスト
・TV等を考えると、ゲストが必要なことも。ただし、あまり自転車に対して素人過ぎると参加者に敬遠される可能性も。
◇付録
・オリジナルの脇道エイドステーションガイド
・経路沿いの公式A.S.以外の休憩ポイント(軽飲食、トイレ、ビューポイントなど)を記載したマップを独自に作成(手書きのコピーで十分)
・紹介した店舗等からの協賛(割引券など)が可能かも。
2 ㈱アドソニック松本支社長 窪田 浩明
1)スケジュール、段取りなどの時間調整に関する事項
■エントリー
開催決定、概要決定の遅くれは否めない。実施決定は1年前、同時に概要を決定し年明けのサイクリング専門誌の年間スケジュールに掲載されることが望ましい。
広報にも関連するが、WEBサイトの充実を図りエンリーシステムの導入を目指すべきでる。
■広報
上記専門誌へのリリース、県内メディアへの積極的なリリースが必要である。
全国的な周知・参加者獲得を目指す場合は専門誌への広告掲載も必要と思われる。広報ツール・アイテムが乏しい。
■申請・各団体への依頼
コース延長、さらに複数の自治体を跨ぐ場合、行政・警察・消防・案協などに対し早めの説明・協力依頼が必要である。
参加者が増加の場合、運営ボランティアの存在が不可欠。早めに依頼団体を決定していく必要がある。
運営以外でもエイドステーションや折り返し地点などにおける歓迎事業の依頼なども。
2)イベント会場、コース等の設計・設置の調整に関する事項
■開催時期
連休中は交通量が増えるので、参加者から敬遠されるばかりか事故発生確率も高まるため時期の見直しが必要。地元開催の他の大会との同時期を避けると5月中下旬はどうか?
■参加料
逆算方式で事業運営上最低5,000円? 事業内容・サービス内容の充実が必要(現状では高い印象が強いのではないか?)
■コース設定
より魅力的なイベントにするためには周回コースが望ましい。
周回コースであれば、最後尾者通過ポイントからスタッフ配置解除・エイドステーション撤去・看板類撤去などを行うことが可能になり、運営面においても効率的になるのではないか。
波田町(国道158号線横断)周辺を避けたコース設定はできないか?
■エイドステーション
参加人数が増加していく場合、エイドステーションの見直しを検討すべきである。
補給食の種類・量が少ない。スポーツドリンクのサービスも必要では。
安曇野公園は、駐輪場が少なく、自転車走行・持ちこみ不可。レーサーシューズを履いている参加者にとって入りやすい環境ではない。そもそも参加者は当日の公園入園を目的としていない。一般来場者も多く、駐車場への走行車両も多い。エイドステーションには不向きと思われる。
■スタート会場
当初構想通り参加人員1,000名~2,000名となる場合、駐車場を含むスタート会場(ゴール会場)の見直しが必要。開会式~アルウイン正面駐車場スタートはスペース的に困難。駐車場の収容力と導線計画・誘導運営についても困難では?
■コース整備
誘導標識の数量が少なく、サイズも小さい、デザインも視認が困難。誘導員を最小限にとどめて実施していくためには看板類の充実が不可欠である。
3)イベントの運用に関する事項
■前日
参加者1,000人規模以上を目指す場合、当日受付は不可能。前日受付を前提とした事業運営計画の立案が必要。
■当日イベント
豚汁とおにぎりのサービスは好評。継続を検討。
ゴール後のフォトサービス(完走証)も好評。可能であれば継続したい。
その他、他の大会にない魅力的な付加価値を創造していきたい。
■交通駐車場
信州スカイパーク=陸上競技場と認識している参加者が多かったようである。今後は事前広報とともに、駐車場誘導のステ看も検討の必要がある。
■スタート
5人~10によるスタートで問題ない。また参加者もそれを望んでいるようである(ロングライドでは一般的?)
■ゴール
フォトサービスを継続する場合、ゴール・写真・豚汁の導線設定、誘導の運営方式を再検討。また同内容で事業継続する場合は誘導・写真・豚汁ともにスタッフの大幅な増員が必要。
■その他
開催初年度ということもあり構想・運営計画ともに遅れ気味であった。
年内に事業構想・運営計画・収支計画を立案し、それに向けた準備を行いたい。前日、当日ともに運営スタッフ数が不足。早期の運営計画立案と、それに基づく人員確保及び必要備品の調達を。
走行時、参加者とスタッフの判別が困難。運営面における安全管理を考えると参加者にはビブスなどを着用させたいが・・・。 参加費を徴収しイベント実施する受益者負担事業である以上、参加者の満足度を高揚させていかないと継続が困難。同種の事業が横行する昨今、他のイベントとの差別化、固有の魅力作りを模索していかなくてはならない。
第2章2 AACR2010に向けて-2
2025/2/19更新
第2回アルプスあづみのセンチュリーライドに向けてさまざまな意見を集約し、計画概要がまとまっていった。
最大の見直し点は次の3つ
- 開催時期を9月から5月へ変更
- スタートをアルウィンから梓水苑へ変更
- 折り返しを国営アルプスあづみの公園大町松川地区から白馬へ変更
1の開催時期については、プロデューサー鈴木雷太より「この地域が一番美しいのは残雪の北アルプス、安曇野の田園風景、新緑の里山、3つがそろった5月にぜひ開催したい」と強い希望が示されすぐに決まった。ただ、第1回から実質半年しかなく、次回計画と調整を大至急進める必要があった。
2と3については難問だった。
元々は「あづみの公園と松本平広域公園の連携事業」として始まったイベントなだけに、2回目にしてその枠組みを大きく飛び出すことになった。
双方の公園管理に携わる者としては「仕事の枠組みを逸脱する」もので、普通はまずできないと思う。
しかし、アルウィンから国営アルプスあづみの公園へ向かうには、どうしても国道158号線、アルピコ交通上高地線と梓川を渡らなければならない。果たしてそのルートは自転車走行にとって安全なのか、楽しいものなのか、と考えると答えはNO。
適切な場所はどこか?を探していくと、梓水苑(しすいえん)が候補に挙がってきた。ここならR158、上高地線、梓川の北に位置するためスタート地点には悪くない。関係各方面に調整し、最終的には、実行委員長で松本平広域公園指定管理者TOYBOX経営責任者市川荘一の判断でGOとなった。また、折り返し点については白馬村の関係者の協力を得られることとなり、国土交通省国営アルプス公園事務所長湯澤将憲の承認を得て、ルートが決まった。 アルプスあづみのセンチュリーライド2010の計画概要は次の通り
●大会要項
・大会名称 アルプスあづみのセンチュリーライド2010
・主催 アルプスあづみのセンチュリーライド2010実行委員会
・構成団体:国土交通省国営アルプスあづみの公園事務所、TOYBOX、財団法人公園緑地管理財団アルプスあづみの公園管理センター、社団法人梓川ふるさと振興公社、白馬村観光局
・プロデュース 鈴木 雷太(バイクランチ)
・後援 松本市、安曇野市、大町市、波田町、山形村、松川村、白馬村、松本市ノーマイカーデー推進市民会議
・協力 ㈱アドソニック、プロスパー、長野県体育センター
・協賛 今後募集
・開催日程 2010年5月29日(土)受付 5月30日(日)大会
・主会場 松本市梓川 梓水苑(しすいえん)
・参加費 高校生以上5,000円 小中学生3,000円
・募集定員 500名
・参加申し込み ランネットまたは郵便
●ルート区分
①140kmクラス 梓水苑 ⇔ 白馬ジャンプ競技場で折返し
②70kmクラス 梓水苑 ⇔ 国営アルプスあづみの公園【大町・松川地区】で折返し
③30kmクラス 梓水苑 ⇔ 国営アルプスあづみの公園【堀金・穂高地区】で折返し